部下から、出社拒否されたお話 ~心理学的観点からの考察~

ある日、苦手なパソコン習得に嫌気がさしたスタッフのおばさまから、

「パソコンやらなきゃいけないなら、もう明日からきません!」

と宣言されて顔面蒼白になり。

ひやひやしながらうった対策がハマってスタッフの退職をまぬがれたわたし。

 

まずは序章。 

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 パートリーダー奮闘編

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 あたしの奮闘編


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今回は、この一連のできごとを心理学的観点から考察しようの回です。

 

 

パソコンのできなかった彼女が大きな変貌を遂げた要因として、
次のことが考えられます。


• 自己効力感を持てるような声がけをパートリーダーが発し続けたこと(個人へのアプローチ)
• パソコン研修で学習経験を積み、新システム習得の下支えをしたこと(環境へのアプローチ)
 

 勘違いをさせる試み ~もののとらえ方を変える働きがけ~

 個人要因と環境要因は、行動に大きな影響を及ぼす。逆もしかり。

カナダ人心理学者アルバート・バンデューラ(Bandura, A.)が提唱した三者相互作用という概念において、個人的要因環境的要因行動の3つの要素は互いに影響をおよぼす、としています。
個人的要因とは、性別や性格、能力などを、環境的要因とは生い立ち、属する文化、社会的・経済的環境などをさします。
 
パソコンのできなかった彼女を振り返ってみると、

• シニア世代、女性、変化に弱い(個人的要因)
• パソコンできなくてもできる仕事、ほかの同僚たちもパソコンが苦手(環境的要因)

 

という2つの要因が彼女をパソコン習得という行動にブレーキをかけていたのでした。

 

 自己効力感を高めて行動をうながす

そんな後ろ向きな彼女にパートリーダーがひたすら試みたアプローチが、自己効力感を高めることでした。

 

自己効力感も、バンデューラが提唱した概念です。三者相互作用において、行動に及ぼす大事な要素としています。

簡単にいうと、「なんかわからんけど、あたしできる気がする!」

もしくは、「いやぁこりゃムリ!できる気がしない・・・」

というような課題を前にした時の自己評価のことをいいます。

  

そしてさらに三者相互作用をベースに展開した理論で、社会認知的キャリア理論(SCCTモデル)というものがあります。

そのモデルが下の図です。

f:id:goldsword:20181223190853j:plainこの図を見ると、自己効力感が行動にもたらす影響がよくわかります。

 

パソコン習得に関して自己効力感が低かった彼女は、自分にパソコン習得できるわけないと決め込み、パソコンへの興味を持てず行動に移しづらくなっていたのでした。

だったら、行動に結びつけてもらうために自己効力感を高めよう、ってことですが。

どうやって高めるの?


バンデューラは自己効力感を高める要素として、次の4つを挙げています。

  1. 個人的達成 自分で成し遂げた経験。本人に納得感があり、自己効力感の上げ下げに最も影響力がある。
  2. 代理学習  他人の経験を観察することで、自分にもできそうという気分を持つ。
  3. 社会的説得 他者からの励ましやサポートの有無。褒められれば自己効力感は高まるし、ダメ出しされると低くなる。
  4. 情緒的覚醒 生理的な反応。不安感や緊張状態にあると自己効力感は下がり、リラックスしていると高まる。
振り返ってみると、パートリーダーが彼女に行ったことは、ちょっとしたことでも「さっすがー!」とひたすらほめることでした。
(上の4つでいうと、「社会的説得」ですね)

 
周囲の人から心理的なサポートを受け(社会的説得)、

     ↓
自分でもパソコン操作できた!という小さな成功体験(個人的達成)を重ねることで、

     ↓
あれ?できるかも、とパソコン習得を前向きにとらえられるようになり(興味)・・・

というプロセスを繰り返すことで、行動につながっていったのです。
 
また、わたし自身も骨のおれる仕事をやり続けるパートリーダーに対して、話を聴いてねぎらったりほめたりして「社会的説得」を繰り返し、パートリーダーに丸投げせずちゃんと見守ってますよ、というメッセージを送り続けていました。
 
こうして二重構造で、自己効力感を高める働きがけをしていたのです。
(全然ねらってやったわけじゃありませんが)

 自己効力感を高めるための「学習経験」

上のSCCTモデルの図を見ていただくとわかるように、学習経験の有無も自己効力感に大きく影響を及ぼします。


わたしが提案したパソコン研修もまた、自己効力感を高める手助けとなりました。

パートリーダーが地道に続ける「社会的説得」と並行して、パソコン研修で「学習経験」を積ませたことで、彼女の自己効力感に作用し新システム習得の下支えとなりました。

 

このように、パートリーダーもわたしも本人のパソコンに対するとらえ方(認知)を変える働きがけをおこなっていたのです。

もののとらえ方を変えるという意味では、彼女に良い意味での勘違いをさせたわけですね。意図的に。


また、このパソコン研修は、自分だけでなくほかのパートもOAスキルを習得するという観点からも彼女の心理的な支えとなったと思います。

というのも、自分だけなぜ?という思いが、後ろ向きにさせていた要因にあったからです。
ほかのメンバーも等しくパソコンを習得する流れをつくることでみんな一緒だよ、というメッセージを送ったのです。

事務職で安定志向だと、よくも悪くも横並びを望む人が多く、ひとりだけ変化がともなう異なる状況におかれることを嫌うものです。

もちろん、パソコンが苦手なほかのメンバーにとっても、パソコン研修は自己効力感を醸成するための「学習経験」となりました。
 

 個人の変化が環境も変える

チーム全員でのパソコン研修で得られた効果はほかにもありました。
特に大きかったのは、彼女がパソコンスキルを習得するプロセスが、ほかのメンバーにとっては「代理学習」となったことでした。

つまり、彼女の変貌がほかのメンバーにとって活力となっていたのです。

 

冒頭で、三者相互作用とは、

個人的要因と環境的要因は、行動に影響を及ぼす。逆もしかり

と書きました。

 

彼女の行動が、その他のメンバーにとっての環境的要因に還元したのでした。

まわるんですねぇ、こうやってなにごとも。ダイナミック!  

自分のちょっとした行動が、ほかの人の支えになっているかもしれません。

 

 

今回は、自分の経験を心理学的観点から振り返ってみました。 

自分自身のことでも、なんかうまくいかないな~ということや、あれはうまくいった!という経験をこの理論で振り返ってみると、解決の糸口が見つかるかもしれませんね。

 

それではまた。